ホラー作家、梨さんの「自由慄」を読みました。
梨さんの本なので、もちろんじわじわくる不穏さが・・・
そして、血がにじんでいるような表紙カバーのデザインもそうですが、フォントや余白の取り方に意味があるように感じ、感覚で読む本だと思いました。
感想やネタバレ考察をしていきますので、未読の人やネタバレが嫌な人は気をつけてくださいね。
「自由慄」とは?
- タイトル:自由慄
- ジャンル:ホラー、モキュメンタリー
- 著者:梨
- 出版社:太田出版
- 発売日:2024年1月26日
「自由慄(じゆうりつ)」とは「自由律俳句」のこと。
俳句や短歌において、五・七・五の定型に縛られずに自由に作られた作品を指します。
小説の中では、女子学生たちが仲良しの友達同士で送り合う手紙を「自由律」と呼んでいました。
ルーズリーフ1枚に手紙や絵を書いて、かわいい折り方をして友達に渡すあの手紙のことです。
この小説は、そんな「自由律」が294個、そして5つの物語パートで構成されています。
「自由律」の内容は不穏で不思議な言葉で綴られており、説明はありません。
なので、読者は想像力を働かせて読むしかありません。
そして、物語パートを読むうちに、バラバラだった「自由律」が少しずつ結びついていく・・というある意味、体験型の本になっています。
「自由慄」の登場人物は?
「自由慄」には、3人の女子高生が登場します。
- 「 」・・ 自ら命を絶った
- 私・・「 」 の親友or恋人
- 学生・・「 」に憧れている
「自由慄」のあらすじは?
舞台は、ごく普通の学校。
仲の良い友達同士で、「自由律」と呼ばれる折り手紙を交換していました。
ところがある日、「 」が突然飛び降り自殺をしてしまいます。
その理由は、はっきりとは語られません。
残された「私」は、「 」の死を受け入れられず、深い後悔に苛まれます。
やがて、「 」の幽霊が「私」の前に現れるようになり、「自由律」の手紙がひとつ、またひとつと残されていきます。
一方、「 」を慕っていた「学生」は、何枚も手紙を作り続けていました。
それがあれば、「 」の幽霊に会えると”あいつ”に聞いて・・・
「自由慄」のネタバレ考察
※注意:ネタバレ有
「自由慄」は、各チャプターごとに日付が記されており、読み進めるにつれて時系列が巻き戻っていく構成になっている。
そのため、逆から読むとまったく違う印象を受ける。
生前、「 」は「私」に心中を持ちかけていた。
けれど「私」は、そのメッセージを既読無視し続けてしまう。
「 」はもともと精神的に不安定で、自傷を繰り返していた。
そして、「私」に強く依存していた。
しかし「私」は、死ぬことが怖かった。
「 」が本気で心中を望んでいると気づいたとき、思わず拒んでしまった。
その結果、「 」はひとりで雨の日に飛び降りる。
しかし、足から腰にかけてが最初に接地していたため、しばらく生きていた。
そして、「私」はそれを発見した(?)
その後、学校では「 」の幽霊が出るという噂が広がる。
「私」は、“一緒に死んであげなかった”という罪悪感を抱き続けている。
「 」の幽霊から届く「自由律」の手紙も、怖くて開けられずにいる。
一方で、「 」を慕っていた「学生」は、「 」に会いたい一心で、ファストフード店の片隅で何通もの「自由律」を作り続けるが、「 」は一向に出てきてくれない。
「学生」と「 」はもともと親しい関係ではなく、「私」を嫌っていた。
心中してあげなかったことで、「仲良し気取り」と批判している。
その後、「学生」はイートインスペースで自傷?自殺した?「この秘密基地をふたりで事故物件にしよう」と言っている。
その後、「私」の元に「 」の霊は出てこなくなり、手紙は途絶える。
「自由慄」まとめ
見て感じる小説。
装丁も、中身のフォントや文字の配置、涙で滲んだような赤文字もよかった。
梨さんは不穏な文章を考える天才だと思う。
